給与は現金手渡しじゃなきゃダメ?“通貨払いの原則”とデジタル給与のはなし
① 通貨払いの原則とは
労働者に支払う賃金は、原則として「通貨」で支払うことが法律で定められています。
これは「労働基準法第24条第1項」によって定められており、いわゆる賃金支払い5原則の1つに数えられています。
この原則は、労働者が生活に困らないよう、確実に価値のある手段で賃金を受け取れるようにするために設けられたものです。
現物や代替品ではなく、通貨(=現金)という確実な手段で支払うことで、トラブルや不利益を防止する狙いがあります。
📌 ワンポイント補足:他の「5原則」とは?
労基法の賃金支払い5原則は以下の通りです👇
- 通貨で(通貨払いの原則)
- 直接本人に(直接払いの原則)
- 全額を(全額払いの原則)
- 毎月1回以上(毎月1回以上払いの原則)
- 一定期日を定めて(一定期日払いの原則)
💡この「通貨払い」が今、デジタル払いという新たな選択肢を取り入れて変化し始めています。
次の章では、NGな支払い方法やOKな例外、そして注目の「デジタル払い」について、具体的に見ていきましょう!
② NG行為(外国通貨払いや現物支給)
「通貨払いの原則」がある以上、賃金は日本円の現金で支払うのが基本です。
そのため、次のような支払い方法は原則としてNGとされています。
🔴 外国通貨での支払い
たとえば「米ドルで支払う」「ユーロで振り込む」など、日本円以外の通貨での支払いはNGです。
為替変動によるリスクや、実際に使いにくいなどの不利益があるためです。
🔴 現物支給(モノやサービス)
「給与の一部を商品券で支給」や「社宅利用を給与の代わりにする」など、通貨以外の物品での支払いもNGです。
これはいわゆる“現物給与”と呼ばれ、原則として認められていません。
💡ただし例外あり!
福利厚生の一環として支給する「現物(例:制服・食事補助など)」は、賃金ではなく“費用”としての扱いとなるため、一定の条件下ではOKとされています。
こうしたNG行為を避けることは、労務トラブルや指摘を防ぐうえで非常に重要です。
次回は、法的にOKな支払い方法を解説していきますね!
③ OKなこと(銀行振込、デジタル払い)
賃金の支払いは「原則=現金手渡し」ですが、実際の職場では振込やデジタル払いも一般的になりつつあります。
この章では、法律上OKとされている具体的な支払い方法を紹介します。
✅ 銀行振込(口座振込)
もっとも一般的な支払い方法。
ただし、これは労働者の「同意」があることが前提です(労基法施行規則第7条の2)。
- 🔹口頭の同意でもOK(ただしトラブル回避のため書面がベター)
- 🔹会社指定の口座でも、強制はNG(選択肢の提示が必要)
✅ デジタル払い(賃金のデジタルマネー支払い)
2023年から、労使協定と労働者の個別同意を条件に、一定の要件を満たす「デジタルマネー口座」への支払いが認められるようになりました。
(くわしくは④で解説します)
💬【補足】
あくまで“労働者の保護”が目的なので、会社の都合で一方的に振込方法を変えたりするのはNGです。
トラブルを防ぐためにも、「説明」+「選択肢提示」+「同意」が重要なキーワードになります。
④ デジタル払いとは
「デジタル払い」とは、銀行口座を介さず、資金移動業者の口座に賃金を振り込む新しい支払い方法です。
2023年4月から制度がスタートし、一定の条件を満たせば企業が導入可能となりました。
要は、「PayPay」や「楽天Pay」のようなアプリ内口座への支払いです。
📌【導入の背景】
- 若年層のキャッシュレス志向
- 海外労働者への送金利便性
- 給与振込口座を持てない人への対応
📱【利用できる主な業者例(2025年4月時点)】
- PayPay給与受取(PayPay)
- COIN+(スタンダード)(リクルートMUFGビジネス)
- 楽天ペイ給与受取(楽天Edy)
- au PAY 給与受取(auペイメント)
⚠️【注意点】
- 全額デジタル払いはNG → 賃金の一部まで(労働者が希望する額)
- 資金移動業者ごとの上限あり(残高100万円以下など)
- 労使協定の締結と、個別同意書の取得が必須
💡ポイント
「通貨払いの原則」は崩さずに、柔軟性を持たせる手段としての制度。
従業員の利便性や希望に応じて選択肢として提示できると、会社の柔軟な対応が評価されます。
⑤ デジタル払いを始めるには
デジタル払いを導入するには、いくつかの法的・実務的なステップが必要です。以下の流れに沿って準備を進めます。
✅ 1. 使用する資金移動業者の条件を確認
賃金支払いに使用できるのは、厚労省の認定を受けた資金移動業者のみ。
資金の保全措置や苦情対応の体制が整っていることが条件です。
✅ 2. 労使協定を締結する
まず、労働者の過半数代表者等と労使協定を結びます。
協定には以下の内容を含める必要があります:
- 対象となる労働者の範囲
- 対象となる賃金の範囲とその金額
- 取扱指定資金移動業者の範囲
- 実施開始時期
✅ 3. 労働者へ説明と同意を得る(個別同意)
デジタル払いは希望者のみです。
対象労働者から「書面または電子データでの明確な同意書」を取得します。
✅ 4. 社内の給与計算システムを確認
デジタル払いの導入には、給与システムの対応可否や運用ルール整備も重要です。
給与明細の記載内容も変わるため、システムベンダーへの確認が必要になることもあります。
💡ポイント
導入には一定の手間がかかりますが、従業員満足度や採用力の向上につながる可能性もあります。
特に若年層・外国人労働者が多い職場では前向きな検討が◎。
⑥ まとめ
賃金支払いには「通貨払いの原則」があり、日本円の現金で直接支払うのが原則です。
一方で、労働者の利便性や実務上の合理性をふまえ、例外的に銀行振込やデジタル払いも可能とされています。
💡ポイントのおさらい
- 通貨払いが原則(現金手渡し)
- 銀行振込は同意があればOK
- デジタル払いは2023年に解禁! ただし労使協定&個別同意が必須
- NG行為は現物支給や外国通貨払い(例:商品券、ビットコイン など)
時代とともに「賃金の払われ方」も多様化しています。
しかし、いずれの方法であっても「労働者の権利を守ること」が最優先。
導入を検討する際は、法令に沿った正しい手続きを踏むことが重要です。
💬 社内ルール整備や労使協定のサポートが必要な場合は、ぜひ社労士へご相談ください!
📌 リンク
厚生労働省:資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
働く人向けリーフレット:賃金を「デジタル払い」で受け取る場合に必要な手続き(労働者の方向け)
企業向けリーフレット:賃金のデジタル払いを導入するにあたって必要な手続き(雇用主向け)
賃金支払いの5原則「全額払いの原則」についてはこちらをご覧ください。
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