判例で学ぶ「有期から無期への転換ルール」— 労契法18条と“更新運用”の落とし穴【判例シリーズ#07】
有期契約を更新し続けていたところ、ある日突然――
「無期転換を申し込まれた」「正社員と同じ扱いを求められた」
そんな相談は、ここ数年で急増しています。
労働契約法18条による無期転換ルールは、「5年を超えたら自動的に正社員になる制度」ではありません。
しかし一方で、更新の仕方を誤ると、企業側に不利な判断が下されることもあります。
本記事では、労契法18条の基本と、判例から見える“更新運用の落とし穴”を整理します。
結論(先にポイント)
- 無期転換は「自動」ではなく労働者の申込みによって成立する
- しかし、更新の繰り返し方次第では企業側の主張が通らなくなる
- 特に、
- 更新上限を設けていない
- 更新理由を説明していない
- 実質的に恒常業務に就かせている こうした運用はリスクが高い
- 「有期だから大丈夫」という認識は非常に危険
制度の概要(労契法18条)
● 無期転換ルールとは
同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者は無期労働契約への転換を申し込むことができます。
※重要なのはここ👇
➡ 5年を超えたら“自動的に無期”ではない
➡ 労働者の申込みがあって初めて成立
争点の整理(実務で問題になるポイント)
実務では、次の点が争点になりやすい。
- 無期転換の申込みが適法か
- 企業側が更新を拒否できるか
- 無期転換後の労働条件はどうなるのか
- 「雇止め」との関係はどう整理されるのか
特に、更新を繰り返してきた経緯が重要視されます。
裁判所の判断(判例の考え方)
判例では、次のような事情が重視される傾向があります。
● 更新の期待が合理的に生じていたか
- 更新回数が多い
- 更新拒否の説明がない
- 契約書に形式的な文言しかない
➡ 雇止め法理(労契法19条)との関係で、企業側の一方的な終了が否定されやすい。
● 実質的に恒常的業務か
- 正社員と同じ業務内容
- 長期雇用を前提とした配置
- 業務の終了予定が不明確
➡ 「有期である合理性」が弱まる。
実務ポイント(企業が注意すべき点)
① 更新上限を明確にする
- 「通算◯年まで」「◯回まで」など
- ただし、後出しは無効になりやすい
② 更新理由・終了理由を説明する
- 業務内容
- プロジェクトの終了時期
- 期間を区切る合理性
③ 無期転換後の条件を事前に整理
- 賃金
- 職務内容
- 正社員と同一か、別区分か
➡ ここを曖昧にするとトラブルになりやすい。
チェックリスト(更新運用の落とし穴)
以下に当てはまる場合、無期転換・雇止めリスクが高い。
□ 有期契約を5年超更新している
□ 更新理由を説明していない
□ 更新上限が設定されていない
□ 正社員とほぼ同じ業務を任せている
□ 雇止め時の説明が用意されていない
□ 無期転換後の処遇を決めていない
関連リンク(判例シリーズ)
- 【判例シリーズ#01】雇止めの法理
- 【判例シリーズ#02】管理監督者性
- 【判例シリーズ#03】同一労働同一賃金
- 【判例シリーズ#04】不合理な待遇差
- 【判例シリーズ#05】安全配慮義務
- 【判例シリーズ#06】整理解雇の法理
参考条文
● 労働契約法18条(無期転換):厚生労働省 無期労働契約への転換(第18条)
● 労働契約法19条(雇止め法理):厚生労働省 「雇止め法理」の法定化(第19条)
● 厚生労働省:無期転換ルールハンドブック
■ まとめ
無期転換ルールで問題になるのは、制度そのものよりも 「更新の運用」 です。
- 更新を重ねる
- 説明をしない
- 期待を持たせる
こうした積み重ねが、企業の選択肢を狭めてしまう ことがあります。
「今は大丈夫」ではなく、5年後を見据えた契約運用 が重要です。
花田勝社会保険労務士事務所(所在地:東京都足立区)では、北千住をはじめとした東京・千葉・埼玉・神奈川・茨城等の中小企業の皆さまに向けて、労務相談や雇用・社会保険の各種手続き、給与計算、就業規則の見直しなど、幅広いサポートを行っております。
📩 お気軽に👉️お問い合わせください。
また、LINE公式アカウントでもご相談お待ちしておりますので、QRコードからぜひご登録ください。


