判例で学ぶ「同一労働同一賃金」—不合理な待遇差はどう判断される?(長澤運輸事件)【判例シリーズ #03】
どんな事件?(概要)
正社員(無期)と、定年後再雇用の嘱託社員(有期)の待遇差が問題となった事件。
長澤運輸では、同じ業務をしているにもかかわらず、嘱託社員には以下の手当等が支給されていませんでした。
- 住宅手当なし
- 扶養手当なし
- 皆勤手当なし
- 能率手当の差
- 賞与の不支給 etc.
嘱託社員側は「同じ仕事なのに待遇が低すぎるのは不合理だ」と主張し、裁判となりました。
最高裁はどう判断した?
最高裁(平成30年6月1日)は、
「有期だからといって一律に低待遇にすることは許されない」
としつつも、“その手当の趣旨”を基準に、不合理かどうか個別に判断すべきとしました。
不合理かどうか判断する3つのポイント
判決で示されたのは次の3基準。
① 業務内容(仕事の内容の同一性)
- 担う業務・責任の大きさがどうか
- 責任の重さ・精神的負荷・安全性リスクなどが同程度か
➡️ 長澤運輸では、正社員と嘱託社員はほぼ同じ業務を担当していた。
② 配置変更の範囲(異動・転勤の可能性)
- 異動・転勤の範囲
- 長期的キャリア形成を前提としているか
➡️ 正社員は転勤あり、嘱託は転勤なし → ここは“相違あり”。
③ その他の事情(企業の賃金制度の趣旨など)
- 手当の趣旨が何か
- どの支給目的なら差が許されるか、が問われる。
ここが核心。
結果:どの待遇差が「不合理」とされた?
最高裁は以下のように判断👇
❌ 不合理とされた
- 無事故手当(能率給の扱い) 同じ「安全運転」の評価なのに減額していたのは不合理。
❌ 説明不足・体系不明で不合理とされた
- 賞与不支給 企業側が「賞与の趣旨」を明確に説明できず、合理性が認められなかった。
⭕ 不合理ではないとされた
- 住宅手当 → 住宅確保を支援する目的で、“長期雇用を前提にした手当”と認められた
- 扶養手当 → 家族扶養を前提とした給付として合理性あり
- 皆勤手当 → 安定的勤務を手当で評価する趣旨が正社員向けに設計されている
企業が今すぐ確認すべきポイント
この判決から導かれる実務チェックはここ👇
🔍 チェック1:手当の“趣旨”を説明できる?
- なぜ支給するのか
- 何を評価するのか
→ ここが曖昧だと“理由説明できない=不合理”と判断されやすい。
🔍 チェック2:非正規との待遇差を説明できる?
- 「長期雇用前提」
- 「転勤有無」
- 「責任の重さ」
➡️ これらが待遇差の根拠として説明できるか。
🔍 チェック3:賞与・退職金は特に要注意
- 制度趣旨を明確に
- 評価要素を文書化(就業規則・賃金規程)
一言アドバイス
待遇差が問題になるのは“差があること”ではなく、“説明できない差があること”。
まずは、各手当の「趣旨」「対象」「支給理由」を明文化しておきましょう。同一労働同一賃金は、文書整備と説明責任の時代です。
まとめ
- 同一労働同一賃金は「一律同じにしろ」ではない
- 手当ごとの“支給趣旨”で判断される
- 説明できない待遇差が一番危険
- 特に賞与・退職金などは根拠を明確に!
関連リンク
参考
- 厚生労働省:同一労働同一賃金特集ページ
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