兼業・副業OKにするときの雇用契約書の注意点|労働時間の通算・秘密保持・競業避止・健康配慮

「副業解禁」に追い風が吹く一方で、ルールが曖昧なまま運用するとトラブルに直結します。

特に、労働時間管理(通算)・秘密保持・競業避止・健康配慮は、雇用契約書や就業規則にきちんと書いておくことが重要です。

この記事では、兼業・副業を“OK”にするときに、雇用契約書へ必ず盛り込むべき要点を、実務視点で分かりやすく解説します。


1.基本スタンス:就業規則と雇用契約書の“二段構え”に

  • 就業規則…全社ルール(原則・手続・守るべき義務・禁止行為)
  • 雇用契約書…個別の合意(対象者ごとの条件・制限・届出義務)

まずは就業規則で「届出・許可」「禁止事由」「懲戒との関係」を定義し、契約書で個別条件を明確化するのが安全です。


2.契約書・規程に入れるべき“5本柱”

① 事前届出・許可の手続

  • 事前に**届出(or 申請)**を義務化
  • 届出事項:副業先の名称・業務内容・契約形態(雇用/業務委託)・予定労働(稼働)時間帯・週/月の想定時間・深夜・危険作業の有無・機密取扱いの有無 など
  • 変更・中止時の再届出/**虚偽・無届の取扱い(是正・懲戒等)**も明記

② 労働時間の把握と“通算”の考え方

  • 他社分も含めた労働時間の把握(自己申告・勤務実績の提出 等)
  • 時間外労働の上限管理・深夜労働の上限配慮
  • 週1回の休日確保勤務間インターバル確保への配慮

副業容認でも、**過重労働の抑止(健康配慮)**は事業者の重要な責務。実態把握の仕組みを必ず用意しましょう。

③ 秘密保持・情報持出し禁止・成果物の帰属

  • 顧客情報・価格情報・ノウハウ・ソースコード・帳票等の持出し・再利用・副業先での使用禁止
  • 個人デバイス利用(BYOD)のデータ保存・クラウド同期の制限
  • 成果物・著作権・知的財産の帰属(本業/副業で明確化)

④ 競業避止(過度はNG、合理的限定がコツ)

  • 禁止の範囲・期間・地域・対象業務合理的に限定
  • 利益相反(取引先/同業/自社と競合する行為)の事前申請

何でもかんでもNGは、無効リスクや人材定着の阻害要因に。必要最小限+透明性がポイント。

⑤ 健康配慮・安全配慮

  • 健診受診・長時間労働時の面談等、健康確保措置を明記
  • 過重労働が見込まれる場合の指導・制限
  • 深夜・危険作業を伴う副業への留意(本業パフォーマンス・安全に影響)

3.アルバイト・短時間労働者での注意

  • シフト制の副業者は**“二重シフトで過重”になりがち。提出シフトの事前調整と実績報告**の仕組みを。
  • 最低賃金・残業割増の計算は各社で適正に。副業OKでも**“賃金ルールと労働時間管理”は各社の責任**です。

4.雇用契約書にそのまま使える“条項例”

※サンプル。自社実態に合わせて修正してください。

(副業の届出)

従業員は、副業・兼業を行う場合、事前に会社所定の様式により、当該業務の内容、契約形態、実施場所、予定就労(稼働)時間及びその他会社が指定する事項を届出るものとする。変更・中止の場合も同様とする。

(労働時間の把握・健康配慮)

従業員は、副業・兼業先の実労働(稼働)時間を会社に報告し、会社はこれを踏まえ、過重労働の防止及び労働時間管理上の必要な措置を講ずる。会社は、必要に応じて労働時間の調整・深夜労働の制限等の指示を行うことができる。

(秘密保持・情報の持出禁止)

従業員は、副業・兼業の有無にかかわらず、在職中および退職後において、会社の営業秘密・個人情報その他機密情報を第三者に開示・漏えいし、または副業・兼業に利用してはならない。業務上知り得た成果物・ノウハウ等の権利帰属は就業規則及び個別合意に定めるところによる。

(競業避止・利益相反)

従業員は、会社の正当な利益を害する競業行為(会社と同一または類似事業での就労・役務提供を含む)を行ってはならない。競業に該当するおそれがある場合、事前に会社の承認を得るものとする。

(是正・懲戒)

無届、虚偽申告、会社の指示に従わないこと、または前各条項に違反した場合、会社は是正指示、就労制限、懲戒その他必要な措置を講ずることがある。


5.運用の“つまずき”を防ぐチェックリスト

  • 副業の届出フォームを用意(Googleフォーム等でOK)
  • 届出→審査→承認→台帳管理の流れを定義
  • 労働時間の自己申告様式(週/月)と実績提出のルール
  • 情報セキュリティ教育(持出禁止・デバイス管理)
  • 就業規則・誓約書・契約書の整合性を再点検

⚠️やりがちNG

  • 全面禁止の一文のみ(人材確保・有効性の両面でリスク)
  • 過度に広い競業避止(期間・地域・範囲が広すぎると無効リスク)
  • 違約金条項の乱用(過大だと労基法16条の趣旨に抵触のおそれ)
  • “OKにしただけ”で管理不在(健康・時間・情報の管理が欠ける)

🧩まとめ

  • 兼業・副業OKは、ルール明確化 × 個別合意 × 運用が3点セット。
  • 労働時間の通算把握・秘密保持・競業避止・健康配慮を「書く+回す」。
  • まずは届出フォームと契約条項の整備から始めましょう。

📌次回予告

👉 SNS・情報発信をめぐる社内ルール(炎上・信用失墜を防ぐための最低限)


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